印刷技術が詰まってる!紙幣にまつわるちょっとした話

印刷技術が詰まってる!紙幣にまつわるちょっとした話

2024/11/11

印刷技術が詰まってる!紙幣にまつわるちょっとした話

新紙幣、発行開始!
7月3日から、とうとう新しいデザインの紙幣(10,000円札・5,000円札・1,000円札)が発行されましたね。

お札に載る人物も一新され、
福沢諭吉、樋口一葉、野口英世から
渋沢栄一、津田梅子、北里柴三郎にバトンタッチ
し、それぞれお札の顔となっています。
これを読んでくださっている方は、もう3種全てのお札を見かけたり手に取ったりはされたでしょうか?
実際に手に取った方は新紙幣にどんな印象を持ちましたか?
筆者としては、正直なところ「以前のお札の方がちょっと高そうに見える…」という印象でした。
以前のお札と比べると言い方は悪いですが、
金額表記が大きいデザインのせいもあるのかちょっとおもちゃみたいというか、
可愛くまとまりすぎてしまっているような…。(あくまで一個人の印象です)
まだ新紙幣に対応していない現金取扱機なども意外とあったりするので多少の不便さや、デザイン変更に不慣れ、というのもあるかと思います。でも、そのうちだんだんと馴染んだり見慣れたりしていくんでしょうね。


弊社はプラスチックカードを製造し、印刷や加工を行う会社なので
紙幣の印刷には絡んでいませんが最新の印刷技術や偽造防止技術も使われているとのこと。
どんな技術や工夫が施されているのか気になったので、今回テーマとして取り上げてみようと思います。

印刷技術が詰まってる!紙幣にまつわるちょっとした話

【お札に使われている偽造防止技術】

新紙幣には、以前のお札に使われていた偽造防止技術が引き続き採用されていますが、
新しい技術も取り入れられています。

以前から使用され、今回も引き続き使われている技術としては
・触ると平坦ではなく多少の「ざらつき」がある。
・お札を傾けたりよく見たりすると「NIPPON」(日本)や「NIPPONGINKO」(日本銀行)等の
 文字が浮かび上がる。
・光沢の出るインキが使われていたり、紫外線に当てると一部図柄が発光する。

といったことが挙げられます。

1つ目に挙げた「ざらつき」ですが、1,000円札・5,000円札・10,000円札でそれぞれ、
ざらついている場所や形が違っています。
なので、目の不自由な方でも触るだけでどのお札か判別しやすいようになっています。

また、今回より新しく使用されている技術としては
・高精細すき入れ⇒すき入れ(“すかし”のこと。お札の場合、光に透かすと、お札中央などにある白い部分に肖像が浮かび上がります。)は以前からありましたが、
 肖像とより細かな模様を組み合わせた緻密なすき入れが新札には施されている。
・3Dホログラム⇒見る角度によって肖像が違って(回転して)見えるようになっている。

…というものがあります。

この3Dホログラムは世界最先端の技術で、お札に使われるのは今回が世界初とのこと。
紙なのに肖像の向きが角度によって変わって見えるなんて面白いですよね。

というように、お札という小さい紙の中に、本当に様々な技術が盛り込まれているのですが、調べたところ、これで原価は20円前後なのだとか。
これだけの技術が詰まっていて偽造が難しいのにそれだけの値段で作れるってすごいことだと思いませんか?
日本ではほとんど偽札というものを見かけませんが、
(ちなみに偽札の流通量は、日本だとお札100万枚あたり0.3枚。比較対象として、アメリカは100万枚あたり100枚の偽札が紛れていたそうです。)
それはこの偽造防止の印刷技術の高さと治安の良さが関係しているそうです。

世界的にキャッシュレス決済が進んでいますが、まだまだ現金が重宝される
(それは先程も述べた通り、偽札が出回りにくく、治安がいいため持ち歩いたり使用するのにリスクが少ない=現金に信用価値がある)
日本にとって、お札が偽造されることはとても大きな問題です。
それを防ぐこういった技術は日本の社会を健全に動かし支える重要なものだと考えます。


【寄り道コラム:お札の豆知識】

お札を作っているのは国立印刷局。紙幣となる紙の製造から印刷までを一手に引き受けています。ちなみにお札に使われている紙は和紙です。
 原料としては「みつまた」や「マニラ麻」が含まれていることは知られていますが、偽造防止のため、配合などはすべて対外秘だそうです。

お札の耐用年数は10,000円札は4~5年くらい、5,000円札や1,000円札はお釣りなどでよく使われ傷みやすいことから1~2年くらいとされています。
 (…意外と短いんですね。タンスにしまわれたりせず、流通しつづければこんなものなのでしょうか。硬貨だと流通しているものでたまにびっくりするくらい古いのが出てきたりしますが、
 紙幣は製造年が書いていないのであまり気にしたことがありませんでした。こんなに早いサイクルで入れ替わっていたんですね。)

・いま現在新札として取り扱われている渋沢栄一・津田梅子・北里柴三郎のお札は、旧札と区別をつける時など「F号券」という呼ばれ方をします。
 (それぞれF10,000円券・F5,000円券・F1,000円券と呼ばれます)

・紙幣を発行する役割を担う、日本の中央銀行として「日本銀行」が1882年に設立されました。その後1885年より「日本銀行券」として下記お札が順に発行されています。
 明治~終戦直後:旧券・改造券
         甲号券・乙号券・丙号券・丁号券
         い号券・ろ号券・は号券(は号券のみ未発行)
 戦後発行~現在:A号券・B号券・C号券・D号券・E号券・F号券
 お札には上記のようにそれぞれ〇号券などという名前がついています。
 ちなみに今までお札になったことがある偉人の人数はちょうど20人で、一番多く登場したことのある偉人は聖徳太子(なんと7度も登場しています)なんだとか。
 また、古い時期のものだと1,000円券・5,000円券・10,000円券ではなく、5銭券や100円券などという今より細かな金額(紙幣価値が当時と今で違ってはいますが)のお札も
 多数存在していました。先述の通り、現在一番新しいお札はF号券です。
 
・日本初の紙幣である旧券(1円券・大黒札とも呼ばれる)は、紙質の強度を上げるためにコンニャクが混ぜられていました
 ですが、それが原因で虫やネズミに食べられることが多かったそうです。
 (明治時代といえば文明開化や明治維新などの華々しい印象もありますが、国内でも海外でも戦争が起きたりしていますし、あまり裕福とは言えない時代です。
 そんな中でもなんとか工夫して丈夫なお札を作ろうとしたのでしょうね。当時の人たちの努力というか試行錯誤の跡を感じられる気がします。
 まあ、せっかく得たお金を食べられてしまうのは、たまったものではないですが…。)


【デザインの変更】

額面のデザインについても見てみましょう。
お札の表面には漢数字(「千円」「五千円」「一万円」)とアラビア数字(「1000」「5000」「10000」)でそれぞれ金額の表記がされています。
旧紙幣では漢数字の方が大きく真ん中に記載されていましたが、今回はアラビア数字の方が大きく目立つように記載されるデザインへ変更となっています。
また、裏面にも以前よりかなり大きめにアラビア文字での金額表記が。

これは漢字を普段使用しない国から来た海外の方でも金額を認識しやすくするため、だそうです。
確かに、漢字に不慣れな国から来た人には「千」「一万」の文字より、見慣れた「1000」「10000」の方が分かりやすくて助かりますよね。

先程紹介した、目の不自由な方がお札を識別しやすくなる「ざらつき」などもそうですが、お札は障害のある方や海外の方なども含め本当に様々な人が使います。
より多くの方が分かりやすく安心して使えることは紙幣として大事な条件の一つだと思います。

それから近年、お札の肖像に選ばれる人は、「知名度」「功績」がある人物であることはもちろんですが、「精密な写真が入手できる明治時代以降の人物」であることも条件だそうです。
確かに、お札の肖像について調べたところ、
以前は日本武尊(やまとたけるのみこと)や聖徳太子、菅原道真や二宮尊徳、
それから(肖像画ではなく銅像ですが)楠木正成など写真が存在しない昔の人物でもお札になっていたのに、
最近は写真が残っている人物ばかりで気にはなっていました。
なるほど、あえて近代の人物から選んでいたのですね。こちらも肖像画より写真のほうが違和感に気づきやすいという偽造防止の観点から、ということのようです。

個人的には、楠木正成のお札があったなら他にも戦国武将のお札があれば面白いですし、
夏目漱石や樋口一葉のお札があるなら近代の文豪のお札などももっとあればその肖像だけでなく作品にも親しみや興味がわく人が増えるのでは、と思っています。
ただ、偽札の製造や一般的な印刷の技術も日々進化していっていますよね。
将来的に、これからお札になるのは「写真が残っている人」から選ぶというのが最低条件として固まっていくかもしれません。
だとしたら、(写真が残っている確率が高い)文豪はともかく、(写真が無く肖像画などしか残っていない)戦国武将などはこれからお札の顔となるのは難しいかもしれませんね…。
ちょっと残念です。まあ、肖像画でも偽造がしにくくなるような画期的な技術などがこれから登場するかもしれませんし、将来どうなっていくかは想像もつきませんが…。


【番外編:世界の紙幣-偽造防止印刷技術や傾向】

と、ここまで日本の紙幣についてみてきましたが、今度は海外の紙幣にも少しふれてみましょう。

いま世界では、40以上の国が「ポリマー紙幣」と呼ばれるフィルム状のプラスチック製の紙幣を流通させています
世界の国や地域は現在約200ほどありますから、おおよそ世界の5分の1と考えると結構多いような気もします。
ポリマー紙幣を使用している主な国としては、開発国であるオーストラリアをはじめ、イギリス、カナダ、ニュージーランドなど該当するのですが、
あなたは見たことや使ったことはありますか?
日本はずっと紙幣は紙でやってきているので、あまり馴染みのないポリマー紙幣ですが、長所と短所をざっと挙げるとこんな感じです。

[長所]
・耐用年数が長い(約10年といわれる)、ので生産コストを抑えられる
・耐久性がある(破れたり汚したりしにくい)
・水で洗える


[短所]
・(耐用年数が長いので結果的に安くなるものの)製造単価は高い
・熱やアルコールなどの薬品に弱い
・折り目やシワが一度つくと元に戻りにくい
・お札を数える時など滑りやすい
・傷がつくとそこから裂けやすくなる



洗濯機で洗ってしまっても問題なくまた使えるという長所がある反面、薬品で色落ちしたり熱で縮んだりなどという短所もあるようですね。
気になるセキュリティ(偽造防止)面についても、ポリマー用紙の製造や印刷は高度な技術が必要とされているので、なかなか偽札が出回ることはないようです。
それから短所である、折り目やシワができてしまうと元に戻りにくいという点。
これが結構難点で、折り目やシワが原因で現金取扱機や自動販売機などで紙幣の識別が困難になるという問題があります。
現金がまだまだ重宝されていて、自動販売機も多く設置されている日本が、ポリマー紙幣に踏み出せないのはこういったことも要因の一つと言われているようです。

ところで、ポリマー(紙幣)といえばこんな話も。
世界で最も偽造が難しい紙幣はスイスフランだと言われているのですが、
これは、光沢インクや超小文字など15個の偽造防止技術が採用されている他
紙は、内側にポリマー、外側(上下から挟み込むよう)にコットン紙を使うという厚めの3層構造で偽造がしにくい作りになっているからなんだとか。

なるほど、ポリマーのみではなく他の素材と合わせて使うことで強度と偽造防止力を上げる、こういったやり方もあるのですね。
紙と合わせることで、ポリマーの短所(裂けやすかったり滑りやすかったりなど)もある程度補えるでしょうし、製造するのに技術力こそ必要ですが、上手いやり方だなと思いました。

印刷技術が詰まってる!紙幣にまつわるちょっとした話

最後に
紙幣をテーマに色々と見てきましたがいかがでしたでしょうか。
当初は、新紙幣に盛り込まれた印刷技術や偽造防止の工夫を中心にコラムを作ろうと思っていたのですが、
調べれば調べるほど様々な角度から興味深い情報が出てきたりして、寄り道コラムや番外編なども含めすっかり長くなってしまいました。

時代や国によってお札の種類や材質などもまったく違ってくるのですね。
普段何気なく手に取っているお札ですが、そこには想像以上に技術と歴史がたくさん詰まっていることが分かり興味深かったです。
気が早いですが、さらにこれから日本や世界でどんなお札が作られていくのか(将来どんな技術が誕生し採用されていくか)、とても楽しみになりました。
10万円札が登場したり、キャッシュレス決済の影響で現金そのものが消えるという未来も「100%ありえない!」とは言えないかも…?
皆さんもお札が手元に来たら、今回紹介した技術を振り返ってみたり、将来どうなっているかなどを是非想像してみてください。
新たな発見があったり、びっくりするような未来が来るかもしれないですね。



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